骨と人魚11 -九月の人魚-(番外)
2022-09-01 Thu 21:20



骨と人魚11 -九月の人魚-(番外)



ある九月の 月明かりが海の底に届きそうに眩しい夜のことでございました



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しじまだけが果てしなく呼応し広がる冷たい水底で

珍しい貝の卵から孵ったばかりの小さな人魚は

魚の尾ではなく二本の人間の足を持っていました



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あれはまだケアラシが海面に立ちこめる凍てつく冬のことでした

汚れた人間の世界を疎い悲しんだひとりの若い女は

これから生まれてくる愛しい我が子には

どうか陸(くが)とは違う世界で暮らして欲しいと願いました

「目の前の海原はなんと広大で美しく神秘的なのだろう

我欲にまみれ罪を罪とも知らぬ者の魂はクラゲとなり当てもなく漂い そのうち泡のように消えてしまうと伝え聞く

海に棲む者は皆浅ましく不浄な争いなどせず 其処は朝焼け夕焼けが珊瑚色に染まるまばゆい極楽のような場所に違いない」



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「止ん事無き綿津見神に願い奉る

生まれてくる我が子をとこしえの命を持つ人魚とされ 海神の妃として迎え入れ給え」

女は海を見渡す山の上に建つ 小さなお宮様に三百日の間 赤い蝋燭を灯してそう願い続けました

「赤はお宮の鳥居と同じ色 きっと魔除けとなりましょう
蝋燭の火は生まれてくる子の道を照らしてくれましょう」



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願いが届いたのか夏の終わりの晩

不思議なことに女は貝でできた卵をひとつ産み落としました

母親となった女は卵を胸に抱くと 月明かりを頼りに沖に小舟を漕ぎ出し

そっと手を離しまだ温かい卵を海の底へと沈めると手を合わせました

するとたった今まで凪いでいた海が轟々と恐ろしい音を立てて渦を巻き出し

瞬く間に小舟ごと女を飲み込んでしまったのです

女が最後にちらと見たものは 山のお宮様に灯した赤い蝋燭のほのかな明かりでした


やがて波が静まると 後は何事もなかったように

九月の澄んだ夜の下の海面を 月が青白く照らすばかり



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卵から孵った人魚の子どもの足は魚の形をしておらず

永遠に目を覚まさすこともなく

頼りない藻屑のようにゆらゆらと揺れながら 唯眠ったままなのです



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これが母親の願った

極楽もかくやとばかりの海中で とこしえの命を与えられた人魚の姿なのでありましょうか



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人形作家: 櫻井紅子




ワタツミにはワタツミの クガにはクガの

ヒトにはヒトの生きる道がありましょうに


小さな人魚は何を思い 今も海の底で眠っているのでございましょう

お宮様には今も誰かが供えた 赤い蝋燭が灯っているのでございましょうか




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これまでに何度となく読み返したり、朗読でも繰り返し聴いている小川未明の『赤いろうそくと人魚』。

未明らしい物悲しさで人間のエゴを映し出し、場面のひとつひとつが影絵のように静かに浮かんでくる短編です。

作中の人魚の母親は、我が子が暗く冷たい北の海で寂しく育つよりも、
情を持ち豊かな生活をする人間の世界で暮らした方がさぞ幸せだろうと考えて子供を手放しました。

では人間の世界を疎う人間の母親であればどうだろう・・・。

その子どもはどうなるのだろう・・・。

(育児放棄をされた子の魂は)そう考えながら今日即興で作ったお話です。

我が子が幸せにと願う気持ちを考えると胸が詰まりますが、境界線を超えることや過ぎた欲よりも、
足るを知るのが大事だと自分に言い聞かせる部分があります。


骨と人魚シリーズ、ぽつりぽつりと2016年から続けています。
18年からは毎年1作づつのスローペースで今回は番外編。
前回は森鴎外の「高瀬舟」の主人公の気持ちに沿い、うちのウイリアムズの心情に当てはめたものです。

人形作家による70cm程の眠り目の球体関節人形と、今年の7月にご縁がありました。

彼女は永遠に目を覚まさないような、仮死的な風貌です。


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シリーズを細々続けています

210720DSC_6010-_20220901203304b21.jpg10. 高瀬舟 202006301728381d9_20210720114508590.jpg9.喰いちぎる腕

1190504DSC_8741 あ8. 難破船 180815DSC_6541w7 呼ぶ声  

骨と人魚180704DSC_5983-26 銀の砂 骨と人魚201709151554065b7-25 肋の心臓 

骨と人魚170805DSC_0279-24波の底の花骨と人魚20170807032123863-23 夢なら
 
骨と人魚20170315125824be2-22.Angels talk骨と人魚201602251554307fa-21 骨と人魚 




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眠るビスクドール
2022-07-19 Tue 10:40




時折、老舗の草餅を買いに歩く地蔵坂に、
いつから開いたのかこじんまりとした画廊店があり、わたしはそこで眠るビスクドールとご縁がありました。


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わたしは20年間静かにその日を待ち望んでいました。


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戻り梅雨のそぼ降る日、ワンピースの袖と裾を濡らしながらおずおずと扉を開けました。

ギャラリーって私には・・・アーチスト系な人が集まりそうな場に居ていいのかと気後れがする。



物静かな若いご店主の距離を保った出迎えと、昔から存在しているような店内の空気と音楽に安心して顔を上げると、
彼女はなんの疑いも持たず、わたしを待っていてくれました。


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gallery hydrangeaにて
撮影及び掲載許可


自分の情報力と行動力の乏しいせいがままあると知っていますが、
作家の創作ビスクドールに一目惚れをして、且つドールにも受け入れてもらい、時世や己の生活環境などを併せて考えると、
お輿入れしてもらう可能性は人生の中でけして高いものではないと思います。


ご店主との短い話の流れで、ツイッターのアカウントを持っていないことを告げると、
どうしてここを知ったのかと少し不思議そうでした。
個人活動の作り手、売り手、買い手、ツイッターは情報を回す生命線といって過言じゃない時代なのでしょう。

ぬいぐるみやお人形が好きな地元のおばさんで、こちらのギャラリーはお買い物の道すがら気になっていました。
(コロナで色々あり)なかなか入店の機会がなく、ようやくこうしてご縁がありました。
そうまんま応えました。

微かな笑顔を返してくれましたが、きっとなんか客層が違うと思われたことでしょうね。


20年間眠るビスクドールとの出会いを待っていました。





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桜色のビスクドールとの出会いは
2022-04-25 Mon 18:43





週末にテディベアとビスクドールを日向ぼっこさせていました。




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ビスクちゃんとは近所の蚤の市で出会い、優しい存在感と愛らしさに一目惚れをして、迷わず家に連れてきました。

品の良い穏やかなお顔で天使みたい。桜の国からやって来たみたい。

彩色が磁器と融合して肌に深さを増しています。


お店の方に「良かったらsnsでこの子のお写真を紹介して下さいね。」と言われたものの、
す、すみませんツイッターとか今だにアカウントさえ持ってない不調法者です。
(これを機にアカウントくらい取ろうか・・・)


日向ぼっこが終わり、外れてしまった人形の帽子を被せなおす時に、首の後ろのサインに気づいてびっくり。


全体の様子と動かした状態から25年くらい前のオールビスクのビンテージだろうな、なんて思ってはいたのですが、
それが1989年の三輪輝子さんによる創作人形だと知りました。

’89 MIWA

(調べたら近年のサインはイニシャルのMとTを組み合わせたようなデザインが多い)


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33年前、初期の頃の作品ですね。人形の名前は不明。

全く気づかず唯々愛しくて、ドレスも靴もその素材までもが素晴らしいと、出会えたのを喜んでばかりいました。

おそらく古いアンティークレースや生地を使用してあり、特に下着はとても繊細で、
誤って破ってはいけないと、脱がせたり本体を念入りにチェックしていなかったんです。


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夕飯の買い物途中目に入り足を向けた蚤の市で、こんな出会いもあるのですね。


作家さんの人形だからと言って扱いが今までと変わるわけではありませんが、
このビスクちゃんの生みの親がわかって良かった。



素敵なお母様ね、大切に作られたのでしょうね、などと話しかけつつ
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心なしかうれしそう




もしこんな私を選んで来てくれたとしたら・・・・・
思い上がりと知りつつも幸せです。



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備忘録
シュタイフ ヒストリックミニチュア テディクラウンローズ1993~1997
シュタイフ USA限定 サーカステディクラウン1987
(帽子衣装はキャビネットに保管)

NOBUKO’s BEAR 2013頃?

三輪輝子氏 クラシカルオールビスクドール1989
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1000回の満月
2017-12-05 Tue 18:40



チビ猫『 よいしょ、ねーねー、あんた達 』

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チビ猫
『 あんた達はいつどういうふうに人間になるの? やっぱり満月の夜に突然変身?
それとも冬眠から覚めたら人間になってるの? あんたにも進化のセオリーってある? 』


チーキー『 ? 』


チビ猫
『 猫が人間になる過程のブンケンはないんだって
人間になると猫だっだ時のことを忘れちゃうのかしら 
だからわたし直に色々な情報を集めているの でも皆反応が冷たいんだ 』

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という事で、チビちゃんはどこかで激しく勘違いしたらしく、大きくなったら人間になれると思い込んでいます。

同じ猫族として、傷つかないようにそれとなく本当のことを教えてあげて、クリス。


『 えーっ なんで僕がァ? 興味ないよそんなヘンテコな子猫なんて 』


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ルカ
『 それに猫ったって俺ら化け猫一族だしね 余計に混乱するでしょその子猫 』

クリス
『 満月が1000回のぼったら人間になれるよ、って言っとこーか? 』

ルカ・クリス
『 そのうち気がつくよ 』


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うーーーん・・・・。


チビ猫
『 お母さーん、皆ケチで教えてくれないの黙っているの 世の中セチガライよー 』


うーーーーん。
(スパっとレイズナーあたりに言ってもらうのも手かな 我儘の扱いには慣れてそーだし) 




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ビスクドール 兎の仔
2017-10-30 Mon 17:24


兎の仔


好きな作家さんのお人形を、そのこのどこもかしこも魅入ってしまい、
しかも手元に来てくれるなんて奇跡的。

SDは元々カスタムできる(する為の)量産キャスト製の人形として傾倒したのだけれど、
作家さんのはそうはいかない。
(そうはいかないから15年ほど前、ルカクリに惚れ今に至る)

家庭の事情やら健康状態、購買のタイミングお足の有り無しも難しい。
好きな作家さんだから手放しで喜び求めるわけでもない。
微妙に作風もこちらの好みも変わる。
引きの運は全般に超弱い。


玉かづらいかなる筋を尋ね来つらむ

どのこもそれぞれに特別なところがあり、このこは来てくれたことが特別。



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名前はなくその時々に兎の仔とか、カノンとか、葛の葉、玉鬘(たまかずら)などと呼んでいます。

ビスクドールはお人形のカタチをした壊れそうな器。

喋らないし聞こえてないし、見えていない器。

過去と現在と未来の流れる時間しか持たずそこに居るだけ。


自分にはそう思えるところがとても美しくあり、ひとの形をしている分だけ不憫さがつのる。


不憫だから愛しさが増すのでしょうか?

だからといってどうしてあげることもできません。


人形のカタチをした器でひとの形をした兎の仔。




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部屋の中で兎の仔に触れると、

レンガの病院の壁みたいに少し湿っていて、

いつもひんやり冷たい。


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酒の肴
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今の時期、浦霞にはこんなのが好みです。

辛口の白ワインに合いそうな肴と言うのでしょうか?
ほんのり甘い野菜に、素材をいかした淡白な魚介。
おだやかな秋な統一色 

何を言っても呑みたいが為の酒呑みの言い訳ですわ。 ま、のも。
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